認定調査項目を読み解く|麻痺等の有無

 1-1麻痺等の有無(前編)

1.調査項目の定義

ここでいう「麻痺等」とは、神経または筋肉組織の損傷、疾病により、筋肉の随意的な運動機能が低下または消失した状況を言う。

2.選択肢の選択基準

認定調査員テキスト参照

3.選択の際の留意点

・主治医意見書の麻痺に関する項目とは選択基準が異なる点に注意。

・装具や介護用品、器具類を使用している場合は、使用している状態で選択します。

・関節に著しい可動域制限があり、関節の運動が出来ないために目的の確認動作が行えない場合を含みます。

・膝関節に拘縮がある場合や生理学的な理由で膝関節の完全な伸展が困難な場合は、他動的に最大限動かせる高さまで自力で挙上することが出来、静止した状態を保持できれば「なし」と判断します。

・日常生活の支障をもって判断するものではありません。

・確認動作の「静止した状態で保持」には何秒間などの定めはありません。

・欠損によって目的とする確認動作が行えない場合は、欠損している部位の選択肢も選択します。
①手指、足趾の欠損のみ場合は”確認動作が行える”と判断するのが妥当です。
②上肢の場合は手関節、下肢の場合は足関節以上(中枢側)の欠損の場合は”確認動作が行えない”と判断するのが妥当です。
なお、欠損があって確認動作が行えないと判断した場合は、「選択肢」と「その他」を選択し、状況を特記に記載します。

・手指、足趾は基本的にはそれぞれ上肢、下肢に含みます。※1

※1 保険者によっては手指、足趾に麻痺等がある場合は「その他」を選択することにしている場合があります。「その他」を選択した場合でも選択しない場合でも1次判定結果は変わりません。(5月の「調査項目を読み解く」参照)

4.ポイント

「麻痺等の有無」は、調査員が判断に迷う項目の上位にランクされています

その理由は以下のようなものによると思われます。

1.可動域制限の「軽度」と「著しい」の判断はどうするのか?

調査員テキストの“調査上の留意点及び特記事項の記載例”には「関節に著しい可動域制限があり、関節の運動が出来ないために目的の確認動作が行えない場合も含む。なお、軽度の可動域制限の場合は、関節の動く範囲で行う。」と記載されています。

更に“下肢の麻痺等の有無の確認方法”には、「なお、膝関節に拘縮があるといった理由や下肢の膝関節等の生理的な理由等で膝関節の完全な伸展そのものが困難であることによって水平に足を挙上できない(仰向けの場合は、足を完全に伸ばせない)場合には、他動的に最大限動かせる高さ(可動域制限のない範囲内)まで、挙上することができ、静止した状態で保持できれば「なし」とし、出来なければ「あり」とする。と記載されています。

上記の2点を総合すると
<上・下肢ともに可動域制限が著しい(大きい)場合は麻痺ありと判断するが、軽度の可動域制限の場合は、他動的に最大限動かせる高さ(可動域制限のない範囲内)まで挙上できるかで判断する。>となります。

2.下肢の場合、膝関節の屈曲制限があり、座位になっても膝関節を直角に曲げられない(膝関節屈曲位という基本姿勢になれない)場合はどう評価するのか?

以上の2点で迷うのではないでしょうか。

1.可動域制限の「軽度」と「著しい」の判断について

これに関連して、H27年度に厚労省の事業として行われた「地域差の要因分析に関する調査研究事業」によれば、麻痺等の有無で下肢の確認動作を試行する場合、可動域制限がありそれが軽度であっても「できない」と判断したり、背中の角度など確認動作姿勢を厳密に決めて施行した結果十分に足が上がらず「できない」と判断した場合、その市町村の要介護度分布は、全国平均のそれと明らかに乖離していたとの報告があります。

また、市町村によっては「○○度まで上げられるか」と具体的な角度を決めて評価するように求めたり、特記事項に確認動作で行った際の挙上角度をキチンと記載することを求めるところもあるようです。

しかし、厚労省ではこのような調査員テキストに記載されていない解釈については言及していませんし、その評価についても「各項目について必ずしも厳密な判断を求めるものではない」「その状況を特記事項に記載して認定審査会に判断を委ねる」としています。

つまり、軽度や著しいとする具体的な角度などはあくまでも保険者側の判断という事です。

実際に厳密な角度を求めるのであれば認定調査員は理学療法士が使うような「角度計」を携帯する必要が出てきます。(とはいえ私自身は今でも訪問調査の際は下の画像の携帯角度計をポケットに入れて確認するようにしています)

可動域制限については認定調査員の判断に委ねられており、そして、上肢の場合は肩の高さまで上げられるかで判断し、下肢の場合は膝から先を水平まで上げられるかではなく、約70°程度まで上げられるかで「軽度」「著しい」の判断をしている方が多いようです。

可動域制限角度の「軽度」「著しい」と判断する具体的な角度について断定できる資料ではありませんが、前述の「地域差の要因分析に関する調査研究事業報告書」のP57~P73「自治体の認定調査員等へのアンケート調査結果」「下肢の水平位置までの挙上」の判断についてのアンケート結果を見ると、椅子に座った状態で、膝を70度程度まで上げることが出来、そのうえで、伸ばした状態を1.0秒間保持できるかどうかを判断基準にしていると回答した方が多いという結果が出ています。

このアンケートは角度そのものを尋ねたものではなく、椅子に座って膝を約10度ずつ屈曲していった7枚の写真を見てもらい、どの位角度であれば「下肢の確認動作ができる・水平に伸ばしたと言えるか」をアンケートしたものです。

このアンケートでは、膝を約10°に曲げた状態を「できる」と判断した調査員は91.9%、同じように約20°に曲げた状態を「できる」と判断した調査員は73.7%、更に約30°に曲げた状態を「できる」と判断した調査員は40.3%で、この30°屈曲が「できる・できない」の意見が最も拮抗した角度という結果でした。

ちなみに、私の経験でも、膝関節の可動域制限があり、30°以上の屈曲拘縮がある状態というのは、歩行や立位などの起居動作に支障をきたしている場合が多いようでした。

これらのことから、下肢は膝の可動域制限(伸展制限)があり、膝を約30°屈曲した状態(膝から先を約60°までしか上げられない状態)を「著しい可動域制限」とし、それ以上あげられる場合を「軽度の可動域制限」と判断するのが妥当というのが大方の意見のようです。

2.膝関節を直角に曲げられない(膝関節屈曲位という基本姿勢になれない)場合はどう評価するのか?

麻痺等の有無の確認動作は膝を直角に曲げられることを前提としています。しかし、人工膝関節置換術を受けた方などは膝を直角に曲げられない方がいます。ケースとしては稀ですが、この場合は80°程度まで屈曲できれば麻痺なしとし、それ以上の屈曲制限がある場合は麻痺ありとして良いのではと考えます。

 

携帯角度計

 

麻痺等の有無と拘縮の有無では、同じ角度でも表現は違うことに注意

なお、麻痺等の有無の下肢の確認動作の基本姿勢は椅子に座った股関節・膝関節ともに90度屈曲位で、この姿勢から下腿(膝から先)をどのくらい挙上できるかで評価します。その角度は膝を90度に曲げた状態を0°とし、そこから伸ばした膝の角度で表現するのが一般的です。

それに対し医学的な膝の角度の表現は違います。(図1参照) そして1‐2拘縮の有無では拘縮の角度を医学的な角度で表現します。この点は注意が必要です。

例:膝関節の屈曲拘縮(伸展制限)があり、膝は約30°曲げた状態から伸ばせない状態。

麻痺等の有無の特記:膝の可動域制限があり、膝から先を約60°以上あげられない。
拘縮の有無の特記 :膝関節は屈曲拘縮があり、約30°曲げた状態から伸ばせない

となります。

ちなみに、市町村によっては角度の表現や可動域制限の評価にルールがあり、それに沿って選択するように指導しているところもありますので、その場合はそれに従ってください。

 

 

図1 医学的な膝の角度表現

 

5.特記事項記載のポイント

・日常生活の支障に関する記載は不要です。(麻痺の項目以外に関連する項目がない場合はこの限りではない)

・選択の根拠となる可動域制限については、その角度などを分かる範囲で記載します。

・その他を選択した場合は、その部位と具体的な状況を記載します。

・実際に行った状況と日頃の状況が異なる場合は、一定期間(概ね過去1週間)の状況において、より頻回な状況に基づき選択します。

6.選択に迷うケースの選択肢と選択理由

ケース 選択肢/選択理由
上肢の確認動作は出来るが、関節リウマチで指が変形してものを掴めない ない/手指は上肢に含まれる。また日常生活の支障では判断しない。変形や握力低下の状態を特記事項に記載する
膝に軽度の可動域制限があり、膝から先を水平にできない。しかし他動的に最大限伸ばせる高さまで自分で足を上げることができる ない/膝の軽度可動域制限の場合(概ね30度以内)、他動的に動かせる最大限の角度まで自分で挙上できて保持できれば「ない」を選択する
肘に拘縮がありまっすぐに伸びないが、肘が曲がった状態で上肢を肩の高さまで上げることはできる 上肢/上肢の確認動作は肘を伸ばして行なうのが原則。ただし軽度の可動域制限の場合は最大限伸ばした状態で確認動作ができるかで判断する
上肢は肩の高さまで何とか上げられるが、上げると手が震えて静止した状態にならない 上肢/静止した状態を保持できているかの判断は認定調査員が行うが、「静止した状態にならない」場合は麻痺ありと評価する
ベッド上寝たきりで、調査の際は指示が通らず確認動作は出来ない。介護者の話では日頃も足を上げたり膝を伸ばす行為はないとの事 下肢/確認動作をやってもらえない場合は、日頃の頻回な状況で選択し、選択理由を特記事項に記載する
左下肢は大腿部から欠損しており、義肢は使用していない 下肢・その他/欠損がある場合は「その他」、欠損により確認動作ができない場合は「下肢」も選択する
手指の欠損があるが、上肢の確認動作は出来る その他/確認動作を行うことができる場合は、欠損による「その他」のみを選択する
頸椎疾患で手術の既往歴があり、後遺症で首をわずかしか回せない その他/四肢以外の、腰椎、頸椎などで自分の意思で目的の運動ができない場合は選択する

 

 

5月の読み解く項目は 1-1麻痺等の有無(後編) 1-2拘縮の有無 です。

 

<訂正と変更>
これまで当サイトでは、膝の可動域制限が20度以上ある場合を「著しい可動域制限」としてきましたが、検証と聞き取りを重ねた結果、可動域制限が30度以上の場合を「著しい可動域制限」とするのが合理的であるとの結論に至りました。そのため、H31年3月に投稿の一部を訂正しました。

本文の内容の一部をR4年2月10日に変更しました。
本文の内容にR4年3月に一部追記しました。