今月の話題11月|訪問調査の時間帯で評価が変わる?

認知症を公表した長谷川和夫医師が近況を語りました。

認知症、なったらそれっきりではなかった。

認知症医療分野の第1人者で医師の長谷川和夫さんが2年前に自らの認知症(嗜銀顆粒性認知症)を公表し、そのインタビュー記事が全国誌に掲載されたことを当サイトのH30年「今月の話題5月」記事に投稿しました。

今年9月の同全国紙で、長谷川さんのその後を伝えるように“認知症とともに”という欄で「なったらそれっきりではなかった、認知症当事者として過ごした2年」というタイトルで、長谷川さんが現在の生活の様子を語ってくれています。

(長谷川さん夫妻。画像は朝日新聞デジタル版記事より転載)
長谷川さんは日頃散歩したりコーヒー店、図書館に行って時間を過ごすとの事。右側の写真は行きつけの喫茶店での1枚
午前中に撮影されたものか、表情が明るく見えます。
(注:「喫茶店での1枚」の写真は、家族からの提供ということで新聞社から転載許可が出なかったため新聞デジタル版へのリンクでご覧ください。)

そんな長谷川さん、数か月前にパジャマのまま早朝からいなくなり、朝8時頃に「コーヒー屋さんも床屋さんは閉まっていた」と言いながら戻って来たことがあったとの事。

そんな記事の中で興味を引いたのは長谷川さんの次の話です。

「以前は認知症というガチっとした状態があって、なったらなったでそれっきりと思っていた。とんでもない間違いでした。
認知症というのは決して固定した状態ではなくて、認知症とそうでない状態は連続している。つまり行ったり来たりなんだと。私の場合は、朝1番から昼頃までは割とスッキリしている。午後1時を過ぎるとだんだん疲れて来て、晩ご飯の前は最高に認知症っぽい。そして翌朝にはまたピカピカの自分に戻っている。」

ところで、介護認定調査では、3群と4群が認知症関連・BPSD関連項目となっており、それぞれ「能力」「有無」で選択する項目となっています。そして3群の能力項目では訪問調査時の質問に対する対象者の返答などで主に評価し、確認の意味で日頃の状態を家族や介護者に聞き取りをします。
この記事内容から考えますと、認知症の能力についての評価は調査する時間帯で違う可能性が高いことが考えられます。

時間帯で症状が違う「日内変動」「日差変動」

この「症状が時間帯で違う」という状態は、医療用語で「症状の変動」と呼ばれるもので、特に精神科疾患や神経系疾患に多いようです。
この変動の幅は、個人差や病気のステージによって異なりますが、時間による変動には日内変動と日差変動があります。
日内変動:1日の中で症状に変動があるもの

日差変動:日単位で症状に変動があるもの

介護が必要になる原因疾患には変動のあるものが複数ある。

ここで厚労省が公開している「介護が必要になった主な原因」の統計を見てみましょう。

次に、私がH24年~27年の間に行政の認定調査員として調査させていただいた新規申請の方約2000人について、個人的にまとめた「介護申請に至った、介護が必要になった原因疾患 Best 10」は次のようになっています。

      注)「その他」は該当者10人未満の疾患の合計人数。

多少の地域差はあるものの、厚労省の統計グラフの総数の分布とほぼ合致していることが解かります。そして、このBest10中の「認知症」「うつ」「パーキンソン病」の3疾患は症状に変動があるとされています。

認知症・うつの・パーキンソン病の3疾患は特に日内変動があるのが特徴

下に「認知症」「うつ」「パーキンソン病」の変動状況と時間帯や調査の際の注意点をまとめました。

疾患名 変動の種類と時間帯症状 調査の際の注意点
認知症日内変動と日差変動
午前中は比較的調子が良いが、夕方から夜にかけて悪化する。
調子の良い日と悪い日がある。
認知症状全般。
夕暮れ症候群やせん妄などが出現する。
・介護者に変動があるか聞き取る。
・認知機能と行動が相反する場合がある。
・日差変動については介護者が気付かないでいる場合がある。
うつ日内変動
朝方調子が悪く、午後から改善する。
抑うつ症状全般・本人や介護者に変動の状態を聞き取る。
・気分や意欲の抑うつ症状だけではなく、不眠や食欲低下などの身体症状が出て生活に影響している場合がある。
パーキンソン病日内変動と日差変動
内服する時間によって変動は異なるが、一般的に午前中は調子が悪く、午後から改善する。薬効が切れる夜間も体調が悪い。
また、時間帯に関係なく突然症状が出たりする。
パーキンソン症状全般・本人や介護者に変動の状態を聞き取る。
・抗パーキンソン薬の内服回数を確認し、夜間や内服前の症状、生活への支障を聞き取る。
・日中は薬効で振戦や歩行の異常は見られない時がある。自発的には言わない場合があるので調査員の方から確認する。
・薬の副作用(ジスキネジア、精神症状、便秘など)による日常生活への影響を聞き取る。

注)認知症の中でもレビー小体病は変動が著明で、アルツハイマー型と脳血管性認知症は比較的変動は少ないと言われています。しかしレビー小体病の初期とアルツハイマー型認知症の区別は難しいことやレビー小体病はアルツハイマー型認知症と合併していることが多いことなどから、ここでは種類分けはせず「認知症」としました。

認知症の日内変動での強烈な経験

私がこれまで体験した極端な日内変動例は、施設入所している認知症の方です。

予約してあった午前中の訪問調査の際は、車椅子に乗った状態で目を閉じてテーブルに額を当てたまま顔も上げず、確認動作は勿論、名前や生年月日の質問にも返答しませんでした。ただ時折頷いたり首を振る反応はあり、寝ている状態ではないことは判りました。

施設職員の話では、朝から昼過ぎまではいつもこのような状態で声も発しないが、食事は声掛けすれば自分で食べるとの事。しかし、午後から次第に活動的になり、夕方頃には不穏状態になるとの事でした。

私は職員の話に半信半疑でしたが、このままでは評価のしようがないので午前の調査を諦め、不穏になるという夕方に再訪することにしました。

同日の16時に施設を訪問すると、対象者は車椅子を自走して施設のホール内を徘徊し、外への出入り口を探し回っている状態でした。発語は依然少ないものの、質問には顔を上げて頷いたり首を振って返答出来る状態となっていました。薬の影響もあるのではと思いましたが、そこは管轄外なので詳しくは聞きませんでした。
認知症にはこんなに日内変動の激しい方もいるんだと驚いた記憶があります。

皆さんも、今後利用外の調査で認知症を始めとする症状変動の可能性のある方の調査をする機会があると思います。
その際は、訪問調査の時間帯と症状の変動の可能性を考えながら聞き取り確認をする事と、「第3群 認知機能(能力)」の評価では、対象者の返答だけでは判断せずに、日頃関わっている介護者の方からも日頃の状態を聞き取っったうえで評価・選択することをお勧めします。