話題|調査項目3・4群は認知症の状態像を拾えているのか?

認知症の人を支援する団体が現在の認定調査項目に異議

「介護のニュースサイトJoint」の記事によれば、認知症の人を支援する団体が、現在の認定調査項目や主治医意見書はアルツハイマー型認知症に偏重していると抗議したとの事です。(以下は同サイト令和元年5月23日記事の抜粋)

認知症の人を支援する団体が集まってつくる「認知症関係当事者・支援者連絡会議」が5月22日、厚生労働省内で記者会見を開いた。
この連絡会議は、「認知症の人と家族の会」など全国的な組織運動を展開している4つの団体で構成するもの。イベントの開催やウェブサイトの運営、施策の提言など、認知症に関する啓発や社会へのアピールを軸に活動している。
今回の提言ではこのほか、「要介護認定には認知症の症状や困難度を加味する項目が少なすぎる」「認定調査のスクリーニング項目や主治医意見書のチェック項目がアルツハイマー型認知症に偏重しており、レビー小体型や前頭側頭型などの症状を拾い上げる項目がない」などと問題を提起。早急の改善を求めている。

介護のニュースサイトjoint  2019.5.23記事より転載

「調査項目がアルツハイマー型認知症に偏重しており、レビー小体型や前頭側頭型認知症などの症状を拾い上げる項目がない」という意見を検証してみた。

認知症の種類と割合

図1は厚生労働省「国民生活基礎調査」(平成28年)のデータから作成された認知症の種類別割合に関するグラフです。

認知症の構成割合は研究する方によってバラツキがありますが、厚生労働省「国民生活基礎調査」ではこのような詳しい調査を数年に1度実施しており、H28年調査分が現在のところ一番新しいデータのようです。
このデータと比較できる厚労省発のデータがないために単純には比較できませんが、以前は脳血管性認知症の構成割合が多かったようです。次回の調査ではその構成割合はさらに変わっている可能性があります。

 図1

 

下の表1は代表的な認知症の種類と症状、その症状に対応する認定調査項目を表にしたものです。

表1

この表の「中核症状・周辺症状と該当する調査項目」において、現在の調査員テキストの調査項目では該当・評価するものがないものにアンダーラインをしています。

現在の調査項目には該当しない・評価できない認知症状

・理解力低下:電気製品の使い方やリモコン操作が解らないなど。このために日常生活に支障があっても評価する項目はない。
・異食行為:調査員テキストでは「調査項目に含まれていないので、関連する項目の特記事項に記載するか、あるいは認知症高齢者の日常生活自立度に特記記入する」となっている。
・不潔行為:同上
・幻視・幻聴:同上
・パーキンソン症状:これによって確認動作が出来ない、介助されている場合のみが該当。書字が出来ない、持っているものを落としてしまうなどを評価する項目はない。
・睡眠時異常行動:夢を見ている時に、その場にいるかのように声を出したり行動を起こしたりする。寝言のために独語には該当しない。
・過眠:日中寝てばかりいる、何かやっている途中でも寝てしまうなど。昼夜逆転には該当しない。
・自発性低下:自発的に行動しないために声がけや促しが必要。行為前の声がけ・促しは介助の方法の「見守り」には該当しないため評価されない。
・常同行動:行動がルーチン化する、同じコースを散歩する、物ややり方にこだわる、施設では同じ場所に座るなど。徘徊や迷子になることはないので、ルール違反行為でなければ該当・評価する項目はない。
・感情の鈍麻:相手の事を考えない、共感が出来ない、身体の具合の悪い家族に普段と同じ事を要求するなど。これらを評価する項目はない。
・無関心:身だしなみ、整容などに関心がなくなる、居室が乱雑になるなど。日常生活に支障が出る状態でなければ該当する項目はなく評価されない。

※介護の手間は省いています。

検証結果

表1で見る限り、アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症に比べ、レビー小体型認知症と前頭側頭型認知症の場合は、アンダーラインのついた「該当しない・評価できない項目」が多いのが判ります。

現在の認定調査項目は誰の目にも明らかな行動や障害がある、いわゆる「陽性症状」は評価されますが、意欲がない、ものぐさ、無関心、閉じこもりなど、いわゆる「陰性症状」は評価されない構成です。

認知症支援団体の方がたの「調査項目がアルツハイマー型認知症に偏重しており、レビー小体型や前頭側頭型認知症などの症状を拾い上げる項目がない」という意見はやや極端ですが、一理あると思わざるを得ません。
これは、認定調査員テキストが改訂された2009年(H21年)当時の認知症の種類構成はアルツハイマー型認知症と脳血管性認知症の割合が多く、これが認定調査項目にも反映された結果ではないかと思われます。

対応策

要介護度を決定するのはあくまでも「介護の手間」ですから、該当しない行動については特記事項にその手間を記載することになります。
記載された介護の手間が審査会で評価されて要介護度に反映されることになっていますが、必ずしも特記事項に記載されたものが二次判定で評価・反映されるとは限りません。これは一次判定結果がそのまま最終的な要介護度になる確率が83,3%(H25年)であることを見ても明らかです。

現在の調査項目と定義、選択肢は二度の改訂を経て構成された、よく出来た項目群だと私自身は思いますし、近い将来に調査項目の大きな改訂があるとも聞きません。

今回のように、調査項目に該当しない・評価されない認知症状に対しては、項目の定義に100%合致していなくても出来る限り現在の認定調査項目に関連付けて評価・選択して一次判定に反映させ、併せてその選択理由などを特記事項に記載することが現実的な対応ではないかと考えます。