話題|調査項目「爪きり・整髪」は1次判定結果にどれほど反映されるかを検証する
「爪きり」「整髪」の選択肢によって1次判定はどれほど変わるのか
「爪きり・整髪」の介助は、入浴時の一連の介助として行われることが多い
介護の現場では、爪きりと整髪は入浴後の一連の介助行為として行われている場合が多いと思います。そしてどちらも食事や移動などの介助に比べ介護負担はそれほど大きなものではありません。
1次判定で要介護度の判定基準となる「要介護認定等基準時間」(以下認定基準時間)を算出する8つの樹形モデルでは、爪切りが「機能訓練関連行為」の樹形モデルの分枝に1回登場しますが、それ以外の樹形モデルには登場しません。
整容に至っては全ての樹形モデルに登場しません。
すなわち、爪きりと整髪はそれぞれ単独では1次判定への関与は「ほとんどない」と言うことです。
しかし、爪きり・整容ともに各群ごとの合計ポイントである「中間評価項目得点」として樹形モデルの分枝に関与しています。
今回、‶検証シリーズ第2弾”として、他の介助の方法の項目と比較して介護量の少ない「爪きり、整容」が1次判定でどのように反映されるのかをシミュレーションしてみました。
爪きり、整容の選択肢ごとの認定基準時間のシミュレーション
シミュレーションは非該当~要介護3までの6段階で、各3ケース(非該当のみ2ケース)計17ケースを使って行い、基となるケースは実際に1次判定されたものを使用しました。
それぞれのケースは出来るだけチェック項目が重複せず、同じ要介護度でもできるだけ認定基準時間が離れたケースを用いました。
ケースごとの認定基準時間
17ケースのそれぞれの1次判定結果の認定基準時間を図表にしました。(図表1)
図表1では選択肢を変更したことで認定基準時間が変化した部分を赤字にしています。
図表1
統計
選択肢をできる(介助されていない) ⇒ 全介助に変更した場合の認定基準時間の違い
最小値 爪切り ‐1.6分 整髪 -5.1分
最大値 爪切り +4.3分 整髪 +7.0分
平均値 爪きり +1.4分 整髪 +1.1分
中央値 爪切り:+1.6分 整髪 ±0分
結果の分析
それぞれの項目で見られた傾向
1.「爪きり」
1.選択肢「介助されていない」⇒「一部介助」とした場合に認定基準時間はほとんど変わらない。
2.選択肢「介助されていない」⇒「全介助」とした場合に認定基準時間が変わる可能性が高い。
3.選択肢「介助されていない」⇒「全介助」とした場合、1次判定が軽度(非該当、要支援1・2)の場合は全例で認定基準時間が変わった。
4.選択肢「介助されていない」⇒「全介助」とした場合でも、1次判定が中度(要介護1~3)の場合は認定基準時間が変わる可能性は低い。
2.「整髪」
1.選択肢「介助されていない」⇒「一部介助」とした場合は認定基準時間はほとんど変わらない。
2.選択肢「介助されていない」⇒「全介助」とした場合でも認定基準時間が変わる可能性は高くない。
3.選択肢「介助されていない」⇒「全介助」とした場合、1次判定が軽度のほうが認定基準時間が変わ可能性が低く、中度のほうが変わる可能性が高くなる。(爪きりとは逆)
結 果
1.爪切り・整髪ともに選択肢が「介助されていない」と「一部介助」では認定基準時間はほとんど変わらない。
2.1次判定の要介護度が軽度(非該当、要支援1・2、要介護1)の場合は、爪きりの選択肢による影響が大きく、整容の選択肢の影響は小さい。
3.1次判定の要介護度が中程度(要介護2・3)の場合は、整髪の選択肢による影響が大きく、爪きりの選択肢の影響は小さくなる。
考 察
爪きり、整髪共に「介助されていない」~「全介助」の平均的な認定基準時間の差は1∼2分であり、同じ認定基準時間の幅が大きい「食事」「排泄」「移動」などに比べると影響差は少ないことが分かります。
シミュレーションの結果、爪きり、整髪ともに選択肢の違いによる1次判定への影響は小さく、要介護度が変わる可能性は非常に少ないと考えます。
いかがだったでしょうか?
私自身、訪問調査に行って爪きりについて聞くと相手に「そんなこと介護度に関係あるの?」と言われたり怪訝な顔をされたり、整髪も特に高齢男性では気にしていない方が多かったりで、どちらの項目もあまり質問に気乗りのしない項目でした。
今回のシミュレーション結果では、1次判定の介護度への影響は少ないものの、1次判定結果の軽度者の場合は爪きり、中程度の場合は整髪にある程度影響されることが分かりました。
現実的には1次判定が軽度者の場合は介助なしで爪きりしている場合が多く、また、中度者では整髪介助によって認定基準時間が1∼2分増えても介護度に影響なかったりする場合が多く、やはりどちらも介護度には大きく関与していない印象です。
しかし基準時間が隣の介護度と3分以内であったりすれば介護度が変わりますから、やはり、確認と聞き取りをキチンとしたいものです。
次回の話題は、「2-12 外出頻度」の選択肢は1次判定結果にどのように反映されるかをシミュレーションします。