話題|膝の可動域制限角度に関する研究論文

膝から先が水平まで上がらない場合の評価


当サイト2018年4月の”調査項目を読み解く:麻痺等の有無”の記事の中で「この項目は認定調査員が評価・判断に迷う項目の上位にランクされている」と書きました。

そして、評価・判断に迷う理由は

1.水平までは上がらないが、どの位まで上がったら確認動作ができると判断するのか?
2.現在の調査員テキストでは「膝に可動域制限があり下肢を水平にできない場合」について、
①他動的に最大限動かせる高さまで自力で挙上することができ、保持できれば麻痺なしと判断する。
②著しい可動域制限がある場合は麻痺ありと判断する。
となっているが、この「著しい」可動域制限とはどの程度を言うのか?

以上の2点を挙げました。

厚労省ではこのような調査員テキストに記載されていない解釈については附属的に発出するQ&Aでも言及していません。

そしてその評価については「各項目について必ずしも厳密な判断を求めるものではない」「その状況を特記事項に記載して認定審査会に判断を委ねる」としています。

つまり、挙上できる角度や可動域制限の角度についての、麻痺なし・ありの最終的な判断は、保険者側の判断としています。

 

膝関節の可動域制限(伸展制限)は約30度以上を「著しい」と評価としている方が多い

この麻痺・拘縮の項目における可動域制限についてはいろいろなアンケートが行われており、その結果として”約30度以上の可動域制限があり、膝を最大30度程度曲げた状態から伸ばせない場合を麻痺・拘縮ありとしている”方が多いことも書きました。

ちなみに私個人も、30度以上の屈曲拘縮(伸展制限)がある場合を可動域制限が著しいとして麻痺・拘縮ともに「ある」を選択しています。

最初は目視でおおよその可動域制限角度を判断していましたが、30度未満か30度以上かが微妙な場合は見極めが中々出来ないため、現在は角度計を携帯し自信がない時はそれで確認しています。

しかし、ADLに支障をきたす可動域制限角度には個人差があり、30度以上を一概に”著しい”と評価していいのかという迷いがありました。

ネット上で公表されている研究結果や論文を見ても、ほとんどが「変形性膝関節症における、術前術後の可動域制限の比較」や「リハビリによって可動域制限が改善された」という報告で、可動域制限角度と歩行や起居動作の関係について述べた報告は見つけることができませんでした。

膝可動域制限角度についての研究論文があった!

個人的にはずっとこの「30度問題」が決着がつかないままでしたが、最近ネット上でこの問題の答えとなるような研究論文を見つけましたので紹介したいと思います。

この論文は2011年に開催された第46回日本理学療法学術大会で発表されたもので、タイトルは「膝関節伸展制限が歩行時の膝関節に及ぼす生体力学的影響」となっています。

下記のリンクから原文をご覧ください。

膝関節伸展制限が歩行時の膝関節に及ぼす生体力学的影響

専門用語が多くて難解ですが、要約すると以下のような内容です。

成人女性10名を被験者にして、膝関節伸展を制限する装具を付けて5種類の角度制限(①制限なし、②-10度、③-20度、④-30度、⑤-40度[膝がまっすぐ伸びて水平になった状態を180度とし、伸展制限があって180度に達しない、その不足角度をマイナス表示したもの。-10度は10度の屈曲拘縮状態のこと])で10m歩行してもらった。

その結果、-20度程度の制限では普通の歩行にはほとんど支障がなかった。一方、-30度・-40度の制限では、必要以上に膝を曲げる力が働き、また本来膝が伸びることで生じる歩行に必要なエネルギーを使うことができず、結果的に歩行に支障があった。特に-40度では支障が顕著だった。というものです。

参考:目視での可動域制限のイメージ

麻痺・拘縮は能力の評価項目ですから、可動域制限によるADLの支障は選択基準になりません。しかし、可動域制限を評価する具体的な角度が示されていない以上、その判断は”日常生活での支障になっているかどうか”で判断せざるを得ないと考えます。

保険者で角度についての統一見解がない場合は調査員の判断で選択する訳ですが、制限角度が中程度の場合はその都度判断に迷います。この時は予め自分で決めている可動域制限角度未満か以上かで判断するしかありません。

自分で具体的な角度を決めていないと、同じ対象者の更新や変更調査で、可動域制限角度は以前と変わっていないのに前回は「麻痺なし」、今回は「麻痺あり」という評価にもなり得ます。

今回、紹介した研究論文が見つかり、30度以上の可動域制限の場合を「麻痺あり」「著しい拘縮」と判断する根拠の一つになり得ると考え、今までモヤモヤしていたものが少し晴れた気がしています。

追伸:もし目視での角度判断に自信がなければ、携帯型の角度計などを使って角度を確認するのも今後の調査に役立つと思います。

                 携帯型の角度計

 

 

 

 

他のケースも見たい方はこちら!


■調査員テキストには載っていない評価のポイントや、現場で判断に悩むケースを多数紹介。

■判断に悩むケースの選択肢と選択理由を説明