話題|「認知症の人と家族の暮らしに関する実態調査」が参考になる

実態調査について

2020年2月に公表された「認知症の人と家族の暮らしに関する実態調査」が、認知症の方の認定調査の参考になると思われるので紹介します。

「認知症の人と家族の暮らしに関する実態調査」は、公益社団法人「認知症の人と家族の会」が2019年10月に行ったものです。

公益社団法人「認知症の人と家族の会」は1980年に京都市に設立され、会員数約11,500人で、全国に支部があります。
同会は認知症患者とその家族のための自助グループで、活動内容は、会員の集い・勉強会・会報発行などを行い、会員からの電話相談なども受け付けています。また、国の社会保障審議会の介護保険部会および介護給付費分科会に委員を出しています。

今回の実態調査は大規模なもので、インターネットでの回答を含め延べ16,000人から回答を得たのことで、その対象は本人、家族、支援者、一般市民で、調査報告書は300ページにも及んでいます。

調査内容は次の4つのカテゴリーに分けられています。
1) 認知症本人の思いに関する調査
2) 認知症の人と家族の介護と暮らしに関する実態調査
3) 認知症に関する一般市民の意識調査
4) 認知症に関わる支援者の意識調査

今回は ”1)認知症本人の思いに関する調査 2)認知症の人と家族の介護と暮らしに関する実態調査”の中から、認定調査に関連したものを抜粋して取り上げました。

 

調査結果の抜粋

認知症の人と家族の思いと介護状況実態調査

 

まとめ

認定調査の視点から見ると、認知症になったことによって特に「外出や移動」「他者との交流」に対するマイナスの影響があったことが注目されます。

<外出や移動>
・車の免許を返納して外出が減った
・自分で運転しなくなり外出しなくなった
・外出の範囲が狭くなった

<他者との交流>
・外出しなくなった
・他者との交流が減った

という声が特に多かったようです。

”他社との交流”については認定調査項目にないので1次判定には反映はされませんが、状況を概況に記載することで審査会委員による対象者の状態像への理解が深まることが考えられます。
また、”外出しなくなった”との声が多くありますが、現在の要介護認定の設計では外出頻度が多いほうが要介護認定等基準時間が多くなり介護度が高くなるようになっています。

次に、P61の表44・要介護度と介護の必要性および表45・認知症の状態と介護の必要性からは、認知症が軽度の状態からすでに調査項目5群の「社会生活への適応項目」での介護の必要性が高くなっているのが判ります

たとえ認知症の診断がない場合でも、また、認知症の診断があるものの目立った周辺症状がない場合でも、聞き取りをしっかり行って5群に関連した介護の手間を特記に記載したいものです。

また、P99・100の「介護保険制度の満足・不満足とその理由」の中の”要介護認定の実情”については、「認定調査の項目だけでは(認知症の状況は)伝わらない」「介護の手間が反映されない」「判定基準が不明確、厳しい」という意見が多くあります。

この意見を裏返せば”介護の手間の記載が少ない”という事が言えるかもしれません。聞き取りと記載漏れがないように気を付けたいものです。

また、P127にある「介護家族が認知症の症状への対応で困っている事」については、調査項目4群精神・行動障害の項目に該当するものもありますが、中には該当しない、定義に含まれないものもあります。

困っている事
該当する4群の項目
同じことを何度も聞かされる4‐5 同じ話をする
罪を着せられ責められる4‐1 被害的になる
興奮を鎮めるのが大変 4‐3 感情が不安定
暴力を振るわれる・攻撃される4‐7 介護に抵抗
目が離せない 4‐14 自分勝手に行動する
困っている事該当する4群の項目
夜なかなか寝付かない該当なし
昼夜逆転の定義に該当しない。
車の運転をしたがる該当なし
運転をしたがる状況だけでは「勝手な行動」の定義に該当しない
サービス利用を嫌がる該当なし
仕事をしたがる該当なし
できないことや認知症であることを認めない該当なし

現在の認定調査項目と特記事項だけで対象者の状態像と介護状態を評価し、それを介護度に適切に反映させることは難しいです。

各項目の介護の手間は勿論ですが、項目に含まれない介護の手間や、手間とまではなっていないが介護者が対応に困っている状況などを能動的に聞き取りし、それを関連項目の特記に具体的に記載することで「現状が反映されている調査内容で介護度も妥当」と言われるような認定調査にしたいものです。