調査項目を読み解く ~4月~


  4月の読み解く項目 1-1麻痺等の有無

1-1麻痺等の有無(前編)

(1)調査項目の定義
ここでいう「麻痺等」とは、神経または筋肉組織の損傷、疾病により、筋肉の随意的な運動機能が低下または消失した状況を言う。

(2)選択肢の選択基準
ー認定調査員テキスト2009(改訂版)参照

(3)調査上の留意点
・装具や介護用品、器具類を使用している場合は、使用している状態で選択する
・関節に著しい可動域制限があり、関節の運動が出来ないために目的の確認動作が行えない場合を含む(麻痺ありと評価する)
・主治医意見書の麻痺に関する項目とは選択基準が異なる
・日常生活の支障をもって判断するものではない
・リハビリの状況も含めて評価する
・確認動作の「静止した状態で保持」には何秒間などの定めはない
・欠損によって目的とする確認動作が行えない場合は、欠損している部位の選択肢も選択する
・手指、足趾はそれぞれ上肢、下肢に含む ※1

※1 手指、足趾を上肢、下肢に含むかは保険者の判断によります。保険者によっては手指、足趾に麻痺等がある場合は「その他」を選択することにしている場合があります。「その他」を選択した場合でも選択しない場合でも1次判定結果は変わりません。(次月の調査項目を読み解く参照)

(4)特記事項記載の留意点
・日常生活の支障に関する記載は不要です。(麻痺の項目以外に関連する項目がない場合はこの限りではない)
・選択の根拠となる可動域制限については、その角度などを分かる範囲で記載します。
・その他を選択した場合は、その部位と具体的な状況を記載します。

(5)実際に行った状況と日頃の状況が異なる場合は、一定期間(概ね過去1週間)の状況において、より頻回な状況に基づき選択します。

「麻痺等の有無」は、調査員が判断に迷う項目の上位にランク

その理由は以下のようなものによると思われます。
1、どのくらいの角度まで上下肢を上げたら確認動作ができたと判断するのか?
2、下肢の麻痺については「関節に著しい可動域制限があるために確認動作ができない場合は『麻痺あり』と判断するが、軽度の可動域制限の場合は他動的に伸ばすことが出来る最大角度まで自力で伸ばしたり曲げたりできる場合は『麻痺なし』と評価する」となっているが、ここで言う「著しい」「軽度」とは具体的にはどのくらいの可動域制限を指すのか?
3、「静止した状態を保持」とあるが、どんな状態でどの位静止できればいいのか?
4、「その他」には具体的にはどのような状態が該当するのか?
などなど

 

麻痺の確認動作でも、ここでは判断に困るケースが多い下肢について取り上げます。そして、その確認方法として最も多いケースである「椅子に座位になって施行する方法」について解説したいと思います。

まず、施行するに当たり以下の2つの条件をクリヤーしていることとします。
① 椅子に座った時に膝が概ね直角になる高さの椅子を用いていること
② 大腿部(太もも)が座面から離れていないこと

大腿部がほぼ水平になっている状態で膝を伸ばして下腿部(膝から先)を水平にし、そのまま静止した状態を保持できれば麻痺は「ない」を選択します。

膝関節に可動域制限があり下肢がまっすぐにならない場合

この場合について調査員テキストでは
1.関節に著しい可動域制限があり、関節の運動ができないために目的の確認動作ができない場合は麻痺に含まれる
2.軽度の可動域制限の場合は関節の動く範囲で確認動作を行う
とし、その確認方法を図に示して「膝関節に拘縮があるといった理由や下肢や膝関節の生理学的な理由などで膝関節の伸展そのものが困難であることによって水平に足を挙上できない場合には、他動的に最大限動かせる高さまで挙上することができ、静止した状態で保持できれば麻痺は『なし』を選択する」となっています。
これらを総合すると、
膝に可動域制限があり、下肢を水平にできない場合について
①著しい可動域制限がある場合は麻痺と判断する
②軽度の可動域制限の場合は、他動的に最大限動かせる高さまで自力で挙上することができなければ麻痺と判断する
と言う事になります。
この「著しい」と「軽度」の線引きをどうするかが悩ましい問題です。

厳密な角度や時間で評価すると要介護度に影響する

これに関連して、H27年度に厚労省の事業として行われた「地域差の要因分析に関する調査研究事業」によれば、可動域制限がある場合にそれが軽度でも「できない」と判断したり、背中の角度など確認動作姿勢を厳密に決めて施行して「できない」と評価した市町村の要介護度分布は、全国平均のそれと明らかに乖離していたとの報告があります。

この調査研究とは別に、市町村によっては「○○度まで上げられるか」と具体的な角度を決めて判断したり、特記事項に確認動作での角度を記載することを求めるところもあるようです。しかし、厚労省ではこのような調査員テキストに記載されていない解釈については特に言及していません。そして「各項目について必ずしも厳密な判断を求めるものではないこと」「その状況を特記事項に記載して認定審査会に判断を委ねる」としており、具体的な角度の記載についてはあくまでも保険者側での判断となっています。実際に厳密な角度を求めるのであれば認定調査員は理学療法士が使うような「角度計」を携帯する必要が出てきます。

膝関節は約20度以上の可動域制限がある場合「著しい可動域制限」としているのが多数

可動域制限角度の「軽度」「著しい」の具体的な角度について断定できる資料はありませんが、前述の地域格差に関する調査員に対するアンケートやヒヤリング結果を見ると、椅子に座った確認動作で、①股関節は約90度の屈曲ができること、②膝関節は膝を90度に曲げた状態から15度程度曲げた状態まで伸ばすことができること(仰臥位では膝関節の屈曲位から膝関節が15度程度曲げた状態まで伸ばすことができる)、そのうえで、伸ばした状態を保持できるかどうかで判断している方が多いようです。
アンケートなどでは、膝を15度程度曲げた状態まで伸ばすことができる場合を「麻痺なし」と判断する調査員はアンケートに答えた調査員の75%以上で、同じように20度程度曲げた状態まで伸ばすことができる場合を「麻痺なし」と判断する調査員は半分の約37%という結果でした。(ちなみに、このアンケートでは角度を尋ねたものではなく、椅子に座って膝を真っすぐににした状態から膝を5度位ずつ曲げていった7枚の写真を見てもらい、認定調査員テキストの確認方法にある「膝を伸ばす動作により下肢を水平位置まで自分で挙上できている」と判断するのに十分なもの、また十分とは言えないものはどれかを尋ねたものです。)

私の経験でも、膝関節の可動域制限があり、まっすぐ伸ばした状態から約20度曲がってそれ以上伸びない状態というのは、歩行や立位などの起居動作に支障をきたしている場合がほとんどでした。
これらのことから、膝関節は約20度以上の可動域制限がある場合を「著しい」、20度未満の場合を「軽度」と選択して良いのではないかと思います。
ちなみに、市町村によっては可動域制限の評価にルールがあり、それに従って選択するように指導しているところもありますので、その場合はそれに従ってください。

ご存知とは思いますが、念のために医学的な膝関節の角度の表示をしますと、図1で示した通り膝を真っすぐ伸ばした状態が屈曲0度、直角に曲げた状態が屈曲90度です。

 

<図1>


「20度ほど膝関節を曲げた状態」とは、椅子に座って膝を直角に曲げた状態から足を70度ほど上げた状態を言います。

具体的なケース"麻痺等の有無"

ケース 選択肢/選択理由
上肢の確認動作は出来るが、関節リウマチで指が変形してものを掴めない ない/手指は上肢に含まれる。また日常生活の支障では判断しない。変形や握力低下の状態を特記事項に記載する
膝に軽度の可動域制限があり、膝から先を水平にできない。しかし他動的に最大限伸ばせる高さまで自分で足を上げることができる ない/膝の軽度可動域制限の場合(概ね20度以内)、他動的に動かせる最大限の角度まで自分で挙上できて保持できれば「ない」を選択する
肘に拘縮がありまっすぐに伸びないが、肘が曲がった状態で上肢を肩の高さまで上げることはできる 上肢/上肢の確認動作は肘を伸ばして行なうのが原則。ただし軽度の可動域制限の場合は(概ね20度以内)最大限伸ばした状態で確認動作ができるかで判断する
上肢は肩の高さまで何とか上げられるが、上げると手が震えて静止した状態にならない 上肢/静止した状態を保持できているかの判断は認定調査員が行うが、「静止した状態にならない」場合は麻痺ありと評価する
ベッド上寝たきりで、調査の際は指示が通らず確認動作は出来ない。介護者の話では日頃も足を上げたり膝を伸ばす行為はないとの事 下肢/確認動作をやってもらえない場合は、日頃の頻回な状況で選択し、選択理由を特記事項に記載する
左下肢は大腿部から欠損しており、義肢は使用していない 下肢・その他/欠損がある場合は「その他」、欠損により確認動作ができない場合は「下肢」も選択する
手指の欠損があるが、上肢の確認動作は出来る その他/確認動作を行うことができる場合は、欠損による「その他」のみを選択する
頸椎疾患で手術の既往歴があり、後遺症で首をわずかしか回せない その他/四肢以外の、腰椎、頸椎などで自分の意思で目的の運動ができない場合は選択する

 

 

5月の読み解く項目は 1-1麻痺等の有無(後編) 1-2拘縮の有無 です

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