話題|「疼痛の看護」に非がん性疾患に対する看護行為は該当するのか?
”疼痛の看護”とは
調査項目その他:過去14日間に受けた特別な医療について「8.疼痛の看護」に関して、この項目に該当する「疼痛」と「看護」とはどのようなものなのでしょうか?
テキストでは “想定される疼痛の範囲は、がん末期のペインコントロールに相当する強い痛み” であり、”過去14日以内に看護師等によって実施された行為”となっています。
疼痛の範囲について
疼痛について、「がん末期のペインコントロールに相当」という表現は、痛みの程度を表す適切な表現とは思われませんが、「進行がんの末期で強い痛みがあり、ペインコントロールが必要な状態」という意味と理解できます。
強い痛みがあってペインコントロールが必要な状態とは?
がんの痛みについての文献には
・進行がん患者の70%で痛みが最大の苦しみとなる
・激しい痛みが1日中続く
・痛みが続くと、眠れない、食べられない、他のことが考えられない状態となり、日々の生活基盤が破壊される
とあります。
また、がんの痛み評価尺度として<STAS-J>という5段階で評価するものがあり、下表のようになっています。
0 | なし |
1 | 時折のまたは断続的な単一の痛みで、患者が今以上の治療を必要としない痛み |
2 | 中等度の痛み。時に調子の悪い日もある。痛みのために病状から見ると可能なはずのADLに支障をきたす |
3 | しばしばひどい症状がある。痛みによってADLや物事への集中力に著しく支障をきたす |
4 | 持続的な耐えられない激しい痛み。他のことを考えることができない |
「がん末期のペインコントロールに相当する」痛みに該当するのは、レベル3∼4になると考えられます。
実際にペインコントロールとして使用されるのが鎮痛剤ですが、その鎮痛剤は大きく分けて一般鎮痛剤とオピオイド鎮痛剤(医療用麻薬)があります。オピオイド鎮痛剤は一般鎮痛剤で効果が見られない場合に使用します。
「がん末期のペインコントロールに相当する」痛みに対してはオピオイド鎮痛剤が使われることが多いようです。
代表的なオピオイド鎮痛剤(赤字は内服以外のもの)
薬品名 | 商品名 |
モルヒネ | オプソ・MSコンチン・カディアン・アンペック座薬・モルヒネ注射液 |
フェンタニル | デュロテップパッチ・フェントステープ・フェンタニル注射液・イーフェンバッカル |
オキシコドン | オキシコンチン・オキノーム |
メサドン | |
コデイン | |
ブブレノルフィン | ノルスパンテープ |
非がん性疾患で保険適用になっているオピオイドは?
非がん性疾患による慢性の疼痛または呼吸困難があり、オピオイド鎮痛剤が使用できるのは
帯状疱疹後神経痛
糖尿病性神経障害
外傷後末しょう神経障害
坐骨神経痛・肋間神経痛
腰痛症・変形性関節症
心不全
COPD
などです。
そして、これらの疾患で保険適用になっているオピオイド鎮痛剤は①モルヒネ内服②デュロテップパッチ③ノルスパンテープのみです。
①は内服薬であり、また③は腰痛症と変形性関節症のみの適用となっており、この2つは「疼痛の看護」には該当しません。
その結果、非がん性疾患で「疼痛の看護」に該当するのはデュロテップパッチを使用している方に限られるという事になります。
保険者は「疼痛の範囲」について、どのような認識を持っているのか?
私が現在認定調査委託を受けている3つの市の担当者に「疼痛の看護」について3つの質問をしました。
Q1:該当する疾患についてはどのように判断しているのか
Q2:痛みの程度とその治療について、どのような状況が該当するのか
Q3:調査票と主治医意見書との整合性を求めるのか
3つの市ともに同じ回答で、
A1:疾患について判断するのは審査会だが、これまで、がんのみが該当するとされたことはない。
A2:痛みについてはテキストにある「がん末期のペインコントロールに相当する痛み」としか言いようがない。具体的な評価基準はない。
治療については「医療用麻薬」を使用している場合が該当すると考えている。
A3:整合性は求めない。主治医意見書に病状や使用薬剤名の記載がない場合でも事務局から主治医に照会することはしない。
看護師等によって行われる行為と手間
看護師等によって行われる行為で該当するのは次の5ケースとなっています。
①点滴
②注射
③硬膜外持続注入
④座薬
⑤貼付型経皮吸収剤
①~③は病院・施設・訪問看護で行われ、ある程度の手間がかかりますが、④⑤はそれほど手間にはなりません。
医療用麻薬の投与は基本的には内服の形で行われ、②注射や④座薬はレスキュー(痛い時の頓用)で投与される場合がほとんどです。そして⑤貼付型経皮吸収剤は医療用麻薬の中でも麻薬成分が強く、内服では十分な鎮痛効果が得られない方に選択されるようです。
医療用麻薬使用に係る看護師の手間は、①や③は手間がありますが、②④⑤については投与の手間よりも、薬剤の管理、鎮痛の評価、副作用の観察などの手間のほうが多いと思われます。
「疼痛の看護」の要介護認定等基準時間は少ない
特別な医療は、1次判定の樹形モデルを介さずに「医療関連行為」の樹形モデルから算出される要介護認定等基準時間に直接加算されます。
特別な医療の12項目の要介護認定等基準時間の平均は5.6分ですが、「疼痛の看護」は2.1分と酸素療法の0.8分に次いで少なく設定されています。ちなみに一番多く設定されているのは「経管栄養」の9.1分です。
これから考えると「疼痛の看護」に係る介護の手間は少ないと評価されていると言えます。
まとめ:「疼痛の看護」が行われていると判断できるのは
1.がん性疾患で慢性の強い痛みがあり、痛みの治療目的にオピオイド鎮痛剤を使用している場合で、その鎮痛剤が内服以外であり、それが看護師等によって実施されていること
2.非がん性疾患で慢性の強い痛みがあり、痛みの治療目的に皮膚貼付型オピオイドのデュロテップパッチを使用している場合で、それが看護師等によって実施されていること
参考
非がん性疾患でオピオイド鎮痛剤を使用している場合、内服薬のために該当ならない場合でも、特記事項に出来るだけ具体的な痛みや介護の手間について記載しましょう。
また、非がん性疾患でデュロテップパッチを使用している場合は、可能であれば主治医に痛みの程度やオピオイド鎮痛剤使用の必要性などを主治医意見書に記載してもらうように依頼すると良いと思います。
主治医意見書に記載があれば審査会での理解が深まると思われます。
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