話題|最近の調査委託金額を調べてみた
1.調査理由
物価高に対応するべく最低賃金引き上げの必要性が言われているなか、6年前に全国の県庁所在地の保険者の認定調査委託金額を2回にわたり記事にしましたが、その後の委託金額に変化があるのかを調べてみました。
2.調査結果
3.調査方法
前回は全国の県庁所在の市・保険者に電話して教えていただきましたが、すぐに教えてくれる所はほとんどなくて苦労したため、今回はネット上などで公開している市・保険者を対象に調べました。対象は45市区町村・保険者になりました。なお、今回は在宅調査のみを対象としました。
4.分析
前回との比較や傾向について分析しましたが、調査対象が前回と全く同じではないためいずれも参考として見ていただければと思います。
①比較
|
R7年8月現在(円) |
H31年1月(円) |
平均委託金額 |
3,971 |
3,611 |
委託金額中央値 |
4,000 |
3,500 |
委託金額最頻値 |
4,000 |
3,240 |
②傾向
最低委託金額はほぼ変わりませんが、最高額の金額が増え、全体のレベルを表す中央値が4,000円と500円アップし、一番多く設定されている金額も4,000円と760円アップしています。
上昇しているのは首都圏や都市部が多く、また、事業所との契約ではなくケアマネ個人と契約する保険者が増えています。
③関係
金額は同一地方で類似しており、金額の決定には近隣の市町村・保険者を参考にしていることが伺えます。
5.まとめ
認定調査委託金額は6年前と比較して全国的に上昇しており、特に首都圏や都市部で顕著でした。
前回調査では最低金額が2,600円、最高金額が4,752円でしたが、今回は最低金額が2,600円、最高金額が6,000円でした。
また、全体の中間部分にあたる中央値は4,000円で前回と比較して500円上昇しています。そして今回の調査で目立ったのが、4,000円としている市町村・保険者が多い事で、全体の38%を占めました。
調査委託金額上昇の背景には最低賃金の上昇と認定調査員の人手不足があると思われます。
厚労省から出ている文書を見てみると、各市区町村や保険者は調査対象者の増大に伴い、新規調査も可能な「事務受託法人」としての委託契約を地区の社協などと結びたいと考えていますが、社協のケアマネはケアマネージメントなどで多忙なためなかなか受けてもらえず、また、社協側も認定調査員として募集するケアマネがなかなか集まらないとのことです。
このため、複数の市区町村・保険者からは、事務受託法人が行う認定調査員資格を現行のケアマネ資格のみではなく、介護福祉士、社会福祉士、理学療法士、看護師などケアマネ資格を持たない有国家資格者にも対象を広げて欲しいとの要望が出ているようです。
6.その他
各種アンケートなどを見ると、訪問による認定調査1件を提出するのに要する平均時間はおおよそ3時間となっています。
内訳 移動 30分
訪問調査 45分
調査票記入と特記事項入力 90分
その他(調査日調整・提出) 15分
これを今回調査の平均委託金額に当てはめると時給約1,324円となります。
一方、2024年の全国平均最低賃金の時給は1,055円(2025年は1,118円の見込み)で、東京都の最低賃金の時給は1,384円となっており、東京都以外でも神奈川県、千葉県、埼玉県、大阪府などで高い傾向があります。そして東京都の最低賃金の時給は全国の認定調査平均時給よりも高い状態です。
これに関連したトピックがありますので紹介します。
これは、R4年に埼玉県所沢市の市議会に、居宅介護支援事業所のケアマネージャー(CM)が、認定調査委託金額が居宅介護支援事業所と所沢市から事務受託法人の契約をしている社協とで倍以上の差があることに対して「介護認定調査の委託料の統一を検討願いたき件」として請願したものです。
請願によると、民間のCMの認定調査委託金額は1件当たり3850円、一方、社協の委託金額は1件当たり7865円で、医師会の調査は6044円となっていたそうです。これを社協の金額と統一して欲しいとの訴えでした。
保険者である市の担当者の答弁は、「認定申請が月に1100件ほどあり、その認定調査を市が400件ほど行い、社協に600件、医師会に100件ほど委託、それ以外を民間CMに委託している。社協は事務受託法人としての契約で新規調査や市外での調査もあり大変なケースもあると聞いている」。
また、「多くの調査を一手に引き受けられる所は他にはなく、多くの調査をやっていただく所にお願いする対価として見積もり合わせを行ったうえで、月に何件などの条件を付けて委託している」とのこと。
民間CMの委託金額については「近隣の保険者の委託金額を参考にして決定している」と述べたのこと。
なお、この請願は市議会の委員会で審議され、採決されています。
採決されたのでその結果は請願者と市長をはじめ関係部署に通知され、実現に向けた努力が求められますが、強制力はないため今後は行政の判断で対応されることになるようです。そして、その後の所沢市の民間CMの委託料金がどうなったかは現在確認できていません。
この件で注目したい点が2つあります.
1点は、社協で働くCMについては、認定調査に費やす約3時間の労働は7,865円に相当し、市側もそれを概ね妥当と認めているという点です。
もう1点は、認定調査業務はCM業務とは別で、その対価は3,850円に相当する、すなわち認定調査は一般的なケアマネージメント業務よりも手間がかからない、もしくは責任が少ないので安くても良い、という考えが市・保険者側にあるということです。
今回の民間CMの請願も、「認定調査委託金額を引き上げて欲しい」と訴えているのではなく、「同じCM資格で同じことをやっているのだから、私たちの認定調査もケアマネ業務として見てもらいたい、そして調査金額を社協のCMと同額にして欲しい」と言っている訳です。
これからも市町村・保険者の認定調査業務に対する考え方に変わりがなければ、専門職が行っている業務対価が都市部の一般のアルバイトなどの最低賃金とそれほど変わらない実態は改善されないと思われます。