話題|認定調査におけるICT活用の現状

要介護認定事務の円滑な実施に係る調査研究事業報告書から

(出典:要介護認定事務の円滑な実施に係る調査研究事業報告書 令和4年3月 株式会社NTTデータ経営研究所)

今回上記の報告書の中から、要介護認定に関わる、認定調査員に関係のある部分だけを抜き出してみました。

1.認定調査業務にどのくらい時間がかかっているか、全国1,741市町村へのアンケート結果

①調査1件当たりの所要時間

②調査1件当たりの調査票作成所要時間

 

③認定調査に係る業務の1件当たりの平均的な所要時間(令和3年11月実施)

※認定調査票の作成は、介護認定業務の中で最も時間がかかっていることが分かる。

③調査を依頼してから調査票を受け取るまでの平均日数

 平均13.0日

2.要介護認定に関する業務の現状について、多様な人口規模の保険者と事務受託法人を対象にヒアリングを行った結果

ヒアリングの結果

名称人口認定調査方法調査票の作成方法ICT活用
神奈川県横浜市3,754,772人紙媒体に手書きでメモをとる調査時のメモを基に認定調査員が事務所のPC又は手書きで調査票を作成なし認定事務センターに認定調査事務の一部を委託
香川県高松市427,131人紙媒体に手書きでメモをとる調査時のメモを基に認定調査員がタブレット端末上で調査結果を入力。入力は移動の車内や事務所などさまざま認定調査票作成のためのタブレット端末を委託先の社協の調査員1名につき1台貸与している。
また、VPN(専用回線)ネットワーク使用している
調査時にもタブレット端末を利用していたが、申請者からクレームがあり現在は調査時には利用していない
福島県郡山市322,966人紙媒体に手書きでメモをとる調査時のメモを基に認定調査員が事務所のPCで入力R2年より調査票確認にAIを利用している。認定審査会にタブレット端末導入AIソフト利用しているため、調査票は専用フォームに入力する必要あり
長崎県佐世保市249,681人紙媒体に手書きでメモをとる調査時のメモを基に認定調査員が事務所のPC又は手書きで調査票を作成なしなし
香川県さぬき市48,121人紙媒体に手書きでメモをとる調査時のメモを基に認定調査員が事務所のPC入力なしなし
長野県川上村3,963人紙媒体に手書きでメモをとる調査時のメモを基に認定調査員が事務所のPCで入力なしなし
公益社団法人かながわ福祉サービス振興会紙媒体に手書きでメモをとる調査時のメモを基に認定調査員が事務所の専用PCで入力認定調査員に専用PCを貸与し、事務局とVPNネットワークで繋いでいるなし

3.ICT利用の実証実験として認定調査にタブレット端末を使用し、その場で調査票を作成、特記事項を音声入力で行う実証事件が行われた結果

ケース1:認定調査業務の経験が長く、日常生活でタブレット端末を利用している調査員がフリック入力で調査を行い、調査表を作成した。
ケース2:認定調査業務の経験が浅く、タブレット端末の利用経験のない調査員がソフトウェアーキーボード入力で調査を行い、調査表を作成した。

結果として、タブレット端末を使ってメモをとる場合は下を見ることが多いため、聞き取りに支障が出た。タブレット端末を使ってその場で選択肢を入力したりメモすることは対象者や家族には印象が悪いようで、この事は認定調査にタブレット端末使用をやめた高松市の例でも明らかになっている。

しかし、やりとりを録音することは記載漏れや事後に確認する手間が省けるので楽との感想が多かったが、対象者や家族から了解を得る必要がある点が指摘されている。

特記事項の音声入力は、提出レベルの特記記載とのことで細かな部分の手入力による修正があったためか大幅な時間の短縮にはなっていないが、入力自体は楽との意見が大勢のようであった。

4.今後活用が進むと予想されるICT

①特記事項の音声入力
既に介護記録や居宅介護支援事業所の記録業務の音声入力はソフトウェアも多く、介護の現場でも活用されていることから特記記載での利用が増える可能性が高い。

②審査会事務局でのAIによる認定調査票の確認
認定調査員が直接かかわる分野ではないが、審査会事務局での調査票確認は審査会事務局での大きな負担となっており、アンケートでは1ケースの確認に約22分を要している。この作業をAIで行うと所要時間は1/5に短縮されていることから、今後利用が進むと思われる。

5.まとめ

・要介護認定に係る業務で時間を要するのは
①認定調査表の作成(調査員)
②認定調査(調査員)
③認定結果の処理・通知
④審査会の開催準備
⑤結果への問い合わせや不服申し立てへの対応
の順であった。

・業務に対する負担感は
①認定調査表の内容確認
②審査会資料の作成・事前送付
③結果への問い合わせや不服申し立てへの対応
④認定調査表の作成(調査員)
⑤調査業務の割り当て・委託
の順であった。

介護認定業務にICT(情報通信技術)を活用することを検討している市町村・保険者は多いが、導入コストや実施方法、導入手順がわからないなどの理由で導入していない所が多い。

認定調査に関しては、今のところ、紙媒体に手書きのメモ形式を採用している市町村がほとんどで、それに勝る手段はない状態。タブレット端末を使って認定調査を行っていた市町村では、調査員がタブレットを見ている時が多いために対象者や家族からクレームが来てタブレットを使っての調査を止めている。

ただし、特記事項の音声入力や審査会事務局でのAIを使った認定調査表の内容確認などは、職員の負担軽減から今後活用が進む可能性が高い。

過去の認定調査とICTに関する記事①
過去の認定調査とICTに関する記事②