認定審査会に伝わる特記を書く|精神・行動障害の特記は何を書くべきか
4群「精神・行動障害」の特記には何を書くべきか
4群の全項目に共通する判断基準
4群はBPSDの有無について評価する項目です。
BPSDとは、認知症に伴う行動・心理状態のことで、記憶障害や見当識障害、実行機能の障害といった中核症状と共にみられる症状です。
中核症状は程度の差はあれ全ての認知症に人に現れる一方、BPSDは周辺症状・随伴症状ともよばれ、その人の性格や環境、介護者との関係などによって出現しその症状は様々です。
一般的にBPSDは中核症状が出現した後に認められますが、中核症状に先行する場合もあります。
また、認知症のどの時期においても出現する可能性があります。ですからBPSDは認知症と診断されていない場合でも出現する可能性があります。
このため、4群は認知症の診断の有無に関わらず、「社会生活上、場面や目的から見て不適切な行動」かどうかが判断基準であり、定義でもあります。(4-12ひどい物忘れだけはこの判断基準とは異なります。)
対象者の行動がBPSDに該当するのか判断できない…
聞き取りした対象者の行動がBPSDに該当するのか、それともBPSDとは言えない行動なのか判断に迷う場合がありませんか?
どんな不可解な行動も突き詰めて聞いていけばある程度納得できる理由があるものです。
しかし調査員には多くの場合その行動の理由が分かるまで耳を傾ける時間はありませんし、対象者の性格や生活史を十分に把握するのは困難ですよね。
ですから判断に迷った場合は、自分が「場面や目的から見て不適切」「場面や状況にはそぐわない」と考えた対象者の行動について、選択肢の選択基準に照らして選択したうえで、特記事項に具体的な行動や状況とともに「判断に迷った」ことを添えて記載し、審査会事務局や審査会委員の判断を仰ぐことが適切と考えます。
問題行動に対して防止策が施され、BPSDには至っていないが…
問題行動やBPSDに対して内服薬が処方されたり、見守りやセンサーで対応したり、やむを得ず抑制が行われている場合があります。
4群の項目では、基本的に現在の状況や環境でその行動が現れたかで判断します。
「前回在宅での調査ではBPSDが見られたが施設に入ってからはなくなった」「内服薬の調節で以前見られた感情の不安定はなくなった」などはよく経験することです。
環境が変わったり内服薬が変更になって以前に見られたBPSDそのものが"現在はない"場合は別にして、BPSD行為を起こしかけてもその後の問題行動を未然に防止する対応がとられている場合があります。先ほどの見守りやセンサー、やむを得ない抑制などがそれにあたります。
具体的には、「介助なしでは歩けないにもかかわらず一人で歩こうとするためセンサーマットを敷いて対応している」「勝手に外に出ようとするので玄関付近に行ったら声をかける」「経管栄養のチューブをいじるのでチューブを見えないように隠す、ミトン手袋を着ける」などです。
この場合の評価は、「BPSD行動には至っていないものの、再三しないように言っているが言うことを聞かない状況」であり、場面や目的から見て不適切な行動であることから「4-14自分勝手に行動する」に該当すると考えるのが妥当です。
ちなみに、「4-14自分勝手に行動する」は、自己中心的な行動やマナー違反などを言うのではなく、危険な行為をする、規則を守らない、介護者の注意を聞かない場合など、いわゆるルール違反が該当します。
4群の項目に含まれない行動があるが…
4群の項目は全て「誰の目にも明らかな行動を起こす」もので、精神科領域では「陽性症状」と言われるものです。
実際の介護の場面ではこの陽性症状とは逆に、意欲がなくなる、億劫で行動しなくなる、などの「陰性症状」と言われるものがあり、「今までしていたことをしなくなる、出来なくなる」「今まで好きだったことに興味を持たなくなる」「閉じこもりがちになる」などがそれにあたります。
これと同じ症状を持つのが「老年期うつ病」です。
うつ病の詳しい説明は他紙に譲りますが、専門医でもうつ病と認知症の区別は難しいようです。しかしうつ病と認知症は発症の経過や症状が異なり、うつ病では発症時期が比較的明確であるのに対し、認知症ではいつからかはっきりしない場合が多いようです。
また、中核症状が原因で起きた失敗に対しうつ病では自覚や深刻さがある一方、認知症ではそれに対する気分の落ち込みは大きなものではなく、むしろ楽観的な傾向があると言われています。
いずれにしても、この陰性症状に該当する項目はありませんので、対象者の全体像を審査会委員に理解してもらうために、関連した項目で「ない」を選択し、「特記事項のみの記載」としたうえで、「家事をしなくなった」「趣味でしていたパッチワークをしなくなった」「欠かさず行っていた囲碁の集まりに行かなくなった」など、具体的な変化や状況を記載することをお勧めします。
BPSDに伴う介護の手間の記載を忘れずに
特記事項に該当行為の頻度を書くことは必須ですが、この行為に対する介護者の対応や介護の手間を記載することは審査会の二次判定の判断のために是非行ってください。
また、行為が発生している場合であっても介護者が対応をとっていない場合もその状況を記載するようにしましょう。