話題|要介護認定結果に対する不服申し立て

過去の話題のコーナーで、国保連や市町村に寄せられる要介護認定に関する苦情や不満を何度か取り上げました。(介護認定に関する最新の苦情 Part1. Part2. Part3. Part4 )

この苦情や不満の中で一番多いのは要介護度に対する不満です。

ほとんどが「想定していた介護度と違う」「同じような状態像の人と介護度が違う」であり、理由は「キチンと確認や聞き取りをしていないのではないか」というものです。

要介護認定結果に納得がいかない場合の解決手段として、保険者・市区町村に要介護認定の区分変更申請あるいは都道府県に審査請求(不服申し立て)を行う、という2つの方法があります。

私も区分変更申請理由が「更新申請での認定結果に納得がいかない」というのを何度か経験しています。

区分変更申請については今更なので割愛させていただきますが、今回は後者の介護保険審査会に対する審査請求(不服申し立て)について取り上げます。

介護保険に係る審査請求(不服申し立て)について

市区町村等が行った手続き(要介護認定や介護保険料の決定など)を"行政処分”といいますが、その処分について不服があるときは都道府県に不服の申立てをすることができる制度が設けられており、その手段を「審査請求」といいます(介護保険法第183条)。

1・審査請求とは

審査請求では、区市町村が行った行政処分の取消しを求めることができます。介護保険審査会は、処分に違法または不当な点がないかを審査し、審査請求に理由があると認めたときは、裁決により処分の全部又は一部を取り消し、区市町村が改めて処分をやり直すことになります。(要介護認定に関する審査請求において、介護保険審査会が独自に認定をやり直すものではありません。)

介護保険審査会は、市区町村等が行った介護保険における処分についての審査請求の審理・裁決を行う中立的な第三者機関として設置されているものです。

2.審査請求できる方

被保険者(行政処分を受けた本人)、親族(処分によって自己の権利や利益を侵害された方)、代理人

3.請求できる期間

認定結果を知った日の翌日から3カ月以内

4.対象となる処分

保険給付(要介護・要支援認定など)に関する処分や保険料に関する処分

5.審査請求の方法
  
審査請求書の提出

                   

審査請求書
      

 

 

 

 

 

 

 

 

 

審査請求書提出先は都道府県の介護保険審査会事務局ですが、市区町村の介護保険担当課でも可能です。

審査請求が受理された後の主な流れ 

1.都道府県の介護保険審査会(以下「県審査会」といいます。)から、処分庁(市区町村)に対し、審査請求があった旨を通知するとともに、弁明書(申し開き書)の提出を求めます。

2.処分庁は県審査会に「弁明書」を提出します。

3. 県審査会から審査請求人に対し、この弁明書の写しを送付します。

4. 審査請求人は、弁明書の内容に反論があるときは「反論書」を県審査会に提出します。県審査会は反論書の写しを処分庁に送付し、処分庁から「再弁明書」の提出があった場合は、審査請求人は、必要に応じてさらに「再反論書」を提出することができます。

このやりとりは弁明書や反論書の提出がなくなるまで続き、また、必要に応じて専門調査員等による調査が行われ審査が行われます。

5. 県審査会は、審査請求書、弁明書や反論書等をもとに審理し、「審査請求に理由があるとして処分を取り消す」か、又は「理由がないとして審査請求を棄却する」かの判断・審議を行います。

裁決について

介護保険審査会の判断を「裁決」と呼びますが、裁決には以下の3つがあります。

1.認容:審査請求人の主張を認めること
市区町村の処分に対する異議主張が認められ、処分庁(市区町村)の原処分(認定結果などの処分庁の決定)の一部または全部が取り消されること。市区町村は改めて処分をやり直すことになります。

2.棄却:審査請求人の主張を認めないこと
原処分は適法・妥当なものとされ、取り消されません。

3.却下:審査請求自体が不適法なために審議手続きを行わないこと
原処分はそのままとなり、取り消されません。審査請求できる期間を過ぎている、審査請求に必要な事項の記載がない等、不適法である場合が該当します。

審議概要報告例 (愛知県の例) 出典:愛知県HP

参考:愛知県における過去3年間の審査請求の審議結果

 R4年R3年R2年
認容  6  5  6  17
棄却   7
  8
  10  25
却下   1  1
  0  2
意見陳述のみ  0  0  1  1
  14
  14
  17  45
認容率
  42%  35%  35%  37%

まとめ

1.審査されるのは、介護度の妥当性ではなく今ある制度や基準に基づいて正しく要介護認定が行われたかどうか

審査されるのは、対象者の状態像に対する要介護認定結果が妥当かの判断ではなく、あくまでも今ある制度や基準に基づき要介護認定が正しく行われたか否かの判断です。なので「調査項目の選択基準がおかしい」「認定制度自体に欠陥がある」などの訴えも審査対象になりません。

2.予想以上に認容率が高い

都道府県に認定結果の不服申し立てを行っても主張が認められる可能性は低いという声がネット上では多く聞かれますが、公表されている愛知県の例を見る限りでは認容率は37%と比較的高いことが分かります。

しかし、あくまでも認定審査会の再審査あるいは再認定調査が行われるということであり、要介護度が変わるとは言い切れません。

3.要介護度に対しての不満には区分変更申請が現実的

介護保険審査会から処分庁(市区町村)への通知から始まり、処分庁の弁明書の発行、それに対する審査請求者の反論書の提出、このやりとりは弁明書や反論書の提出がなくなるまで続き、裁決までには数ヶ月かかると言われています。

これに比べ、区分変更申請の場合は申請から原則30日後には認定結果が出るのでケアプランなどの面からも現実的と言えます。

4.保険者は審査請求の前に市区町村窓口で認定結果についての説明を受けることを勧めるが・・・

保険者は審査請求の前に各市町村の窓口で審査判定資料(認定調査票、主治医意見書など)を入手して、市町村から認定の経緯について説明を受けることを勧めています。

しかし、これらの審査判定資料をすべての市区町村が開示している訳ではなく、ケアプランを立てる目的に担当ケアマネに限って開示しているところも多いのが現状です。

介護保険に係る審査請求(不服申立て)について(愛知県HP)
https://www.pref.aichi.jp/soshiki/korei/kaigo-shinsaseikyu.html