認定調査項目を読み解く|短期記憶・自分の名前を言う

3-4 短期記憶

1.項目の定義

「短期記憶」(面接調査の直前に何をしていたか思い出す)能力を評価する項目です。

ここでいう「短期記憶」とは、面接調査日の調査直前にしていたことについて、把握しているかどうかのことです。

2.選択肢の選択基準

認定調査員テキスト参照

3.選択の際の留意点

・調査直前から1~2時間ぐらい前のことを覚えているかを確認し選択しま すが、質問に対する返答のみでの選択は行わず、介護者や家族から普段の 様子を聞き取り、より頻回に見られる状況から選択します。

・質問内容に決まったものはありませんが、「何をしていたのか」が分かればよく、「どんな内容であったか」を聞いてその正誤で判断するものではありません。
<不適切な例>
:食事の献立は何でしたか?
:観ていたTVの内容はどんなでしたか? etc…

・短期記憶と4群の「ひどい物忘れ」の相関はありますが、定義が異なる点 に留意してください。

・調査日の状況と介護者から聞き取りした状況が異なる場合は、一定期間(調 査日より概ね過去 1 週間)の状況においてより頻回な状況に基づいて選択します。

・普段の様子を知る同席者等がいない場合は3品テスト(下記参照)を用い て評価しますが、難易度が高く、また急な質問で誤答率も高いため、他に判断する方法がない時に行います。(平成 26 年度認定調査員E ラーニング解説より)3品テストで選択した場合は、その状況を特記事項に記載します

-3品テストー
測定内容:「ペン」、「時計」、「視力確認表」等を見せて、何があるか復唱をさせ、これからこの3つの物を見えないところにしまい、何がなくなったかを問うので覚えておくように話をします。
その後は別の項目の質問などを行い、5分以上経過してから、先に提示した物のうち2つを提示し、提示されていないものについて答えられたかで選択します。

なお、視覚的に把握できない場合は、3つの物を口頭で説明する等、調査対象者に質問の内容が伝わるように工夫して行います。

<ポイント>
提示するものは3品とも関連のないもので、かつ対象者が理解できるものとします。携帯電話、スマホなどは使わない方が良いでしょう。

ヒントについては賛否がありますが、ヒントのレベルで反応が違うことが考えられるので、ヒントは出さないこととします。

4.ポイント

実際の調査では認知症のある方でも直前のことは覚えている場合が多く、また「何もしていない」と答える方もいます。

留意点にも書きましたが次のような場合は「できないと」判断される確率が高くなります。

①何をしていたかではなく、していたことの具体的な内容の正誤で判断する。

②対象者全員に3品テストを行い、その結果を優先する。

③4群の「ひどい物忘れ」が「ある」場合は短期記憶も「できない」を選択する。

④「5-1薬の内服」の介助の方法、「3-2日課の理解」の能力を加味して判断する。

原則として、対象者自身と日頃の様子を知る方の双方に聞き取りを行い、調査時の返答だけではなく日頃の状況もあわせて評価・選択するようにします。

5.判断に迷うケースの選択と選択理由

ケース 選択肢/選択理由
直前に何をしていたかは正答し、2時間ほど前に昼食を食べたことも覚えているが、食事の献立は覚えていない。日頃1~2時間前のことがわからないことはないと家族から聞き取る できる
何をしていたかを答えることができるかで判断する。献立まで正答する必要はない
日頃も当日のことは大体覚えており、調査の際も答えることができたが、家族の話では時間が経つと記憶が曖昧になるとのこと できる/短期記憶ができないことと物忘れは同一ではない。
直前~2時間くらい前の記憶で選択する
調査時は直前のことを正答し、日頃も直前のことを忘れることは少ない。しかし物忘れがあるため大事なことはメモして貼っておくが、貼ってあることを忘れてしまう できる
直前から 2 時間くらい前の記憶で判断する
調査直前のことは大まかに正答したが、日頃からついさっき自分で言ったことや自分のとった行動を忘れていると家族から聞き取る できない/一定期間内のより頻回な状況で選択する。
実際の調査では質問に対して無難に返答する場合が多いので介護者への日頃の状況の確認は必須
調査時は直前のことを正答したが、日頃は日にちや曜日を忘れ、家族に繰り返し何度も聞いてくる できない/日頃は直前に聞いたことを忘れて同じ質問をしている状態で、日頃のより頻回な状況で選択する
日頃は食事したことや薬の内服を忘れることはない。しかし電話や来客の応対をすると数十分後には内容はもちろん対応したことも曖昧になる。そのため、家族からは電話等に出ないように言われている できない/習慣的な行為∗¹を忘れずにできている場合でも、ついさっきのエピソード行為を覚えていない場合は該当し、その頻度から選択する

∗¹習慣的な行為は、長期記憶の手続き記憶に属していると言われている。

3-5 自分の名前を言う

1.項目の定義

自分の名前を言う」能力を評価する項目です。

ここでいう「自分の名前を言う」とは、自分の姓もしくは名前のどちらかを答えることです。

2.選択肢の選択基準

認定調査員テキスト参照

3.選択の際の留意点

・旧姓でも正しく答えることができれば「できる」と判断します。

・言葉や筆談でなくても、身振り手振りで理解していることがわかればできると判断します。

・調査日の状況と介護者から聞き取りした状況が異なる場合は、一定期間(調 査日より概ね過去 1 週間)の状況においてより頻回な状況に基づいて選択します。その場合は選択した根拠等について、具体的な内容を特記事項に 記載します。

4.ポイント

発語がなく、質問に対して頷くなどで反応している方の場合は、最初は間違った名前で呼びかけて正誤を確認するのも一つの方法です。。

5.判断に迷うケースの選択と選択理由

ケース 選択肢と選択理由
姓では返事しないが、名前を言うと返事をする できる/姓、名前どちらかでも答えることができれば「できる」とします
失語症がある。名前を聞くと傍らにあった自分の杖に書いてある名前を指さした できる
身振りから理解していることが確認できる
自分の名前を答えることはできないが、名前を呼ぶと顔を上げて呼んだ人の顔を見る できない/呼名に返答する、または頷く行為がある場合「できる」と判断するが、顔を上げるのみでは正誤の確認ができないため「できない」を選択します
精神状態に波があり、調子が良い時は呼名に返答するが、調子が悪い時は何の反応もない。調査の際は返答したが、日頃は反応がない時が多いとのこと できない
調査日の状況と日頃の状況が異なる場合は、一定期間内のより頻回な状況で選択する

 

次回の読み解く項目は 「3-6今の季節を理解する」 「3-7場所の理解」です。