話題|「麻痺等の有無」「拘縮の有無」の特記の書き方を考える

最近、当サイトの質問コーナーから「麻痺等の有無、拘縮の有無」の特記記載に関する問い合わせが続いたため、今回はこれを取り上げます。

麻痺・拘縮の有無は認定審査会事務局からの照会で最も多い項目

各保険者の介護認定調査員研修などで紹介される「認定調査結果に関する照会」では、麻痺・拘縮に関する照会件数が最も多く、その内訳は1位:選択ミス 2位:特記不十分 3位:特記記載ミス だそうです。

照会が多くなる要因は?

麻痺・拘縮の有無は、四肢の関連する関節に可動域制限がある場合、それが「軽度の可動域制限」であるのか「著しい拘縮」であるのかが有無の判断を左右しますが、調査員テキストには明確な角度の規定がないため、調査員側、審査会事務局側にも迷いがある場合が多いようです。

各保険者には判断基準はあるようですが、保険者内で統一されていなかったり、調査員に対しても全員への指導や通達の形ではなく、各調査員に個別に対応している場合が多いようです。

実際にネットなどにアップされている特記例

<厚労省の能力向上研修会特記事例>
・脳血管疾患の後遺症により下半身に麻痺があり、確認動作が行えなかった。他の部位については問題なし。

・右片麻痺により右上下肢は確認動作ができず、日頃も同様とのことで、「右上下肢」が「ある」を選択する。

・右肩関節は他動的に挙上すると痛みが伴い 60 度くらいまでしか挙上できず「ある」を選択。他は確認動作可

・座位にて確認。上肢動作は問題なし。下肢は定義の半分程度の挙上しかできないため「両下肢」は「あり」。右手第1,5 指の指先に変形あり、力が入らず、「その他」を「あり」とする。

・リウマチのため、両肩、両膝、両腕の痛みを訴え、特に右手首に腫脹が見られ力が入り難い。両足指、両手に変形が見られ、動作時に右大腿部に痛みが生じ、歩行器に体を預けないと行動ができない。目的動作はすべてできたため「ない」を選択。

・両下肢40度しか挙上できないため「麻痺あり」を選択、両膝関節は60°の伸展不良のため「拘縮あり」を選択   

<各保険者の特記記載例>
-会津若松市-
・右膝に可動域制限がみられるが、可動域の範囲内で確認動作が行えた→ 麻痺 ない

-奈良市-
・右半身麻痺あり、右上肢は自力で胸のあたりまでしか挙上できない。右下肢は床から数センチ何とか挙上できる状態。→ 麻痺 右上肢・下肢 あり

-青森市-
・右膝は床に対して水平に伸ばそうとしたが、45度くらいまでしか上げられず、その状態を保持できなかった。→ 麻痺 右下肢 あり
・座った状態で試行を行ったところ、両上肢、股関節は確認動作ができた。膝関節は関節が固くなっていて90度程度の屈曲は困難であった。拘縮は『膝関節』を選択した。

-茨木市-
・基準(上肢は肩の高さまで、下肢はやや水平まで、拘縮がある場合は可動域制限のない範囲まで)まで上げることが出来ない → 麻痺、上肢・下肢 ある
・基準(上肢は肩の高さまで、下肢はやや水平まで、拘縮がある場合は可動域制限のない範囲まで)まで上げて保持出来た → 麻痺 上肢・下肢 ない
※( )内は説明目的で記載したもので、実際に記載を求めるものではないと思われる
・膝関節をほぼ真っすぐ伸ばした状態から70°程度しか他動的に曲げることが出来なかった → 膝関節拘縮あり

-東京都江戸川区-
・左上肢は肘が曲がった状態で前・横30°程度で静止保持、痛みの訴えあり。左下肢60°は自分で上げられたがそれ以上は無理とのこと→ 麻痺 左上肢・下肢 ある

ー他ー
・両上肢は、前方は挙上できたが、横からの挙上は肩から腕までの痛みがあり挙上できなかった。両下肢は、左下肢は自力で30°、右下肢は60°までしか挙上できなかった。→ 麻痺 両上下肢 ある
・両肩関節は、他動でも確認動作はできなかった。左膝関節は他動で60度くらいまでしか挙上できず、右関節は他動的に挙上できた→ 拘縮 両肩関節、左膝 ある

判かりにくい記載例

<厚労省能力向上研修会の特記事例>
①両下肢40度しか挙上できないため「麻痺あり」を選択、両膝関節は60°の伸展不良のため「拘縮あり」を選択 

<茨木市>
②両下肢ともに椅子に座った状態で自動で8割程度挙げて静止した状態を保持出来た → 麻痺 なし

①は、膝関節が屈曲拘縮している状況を「伸展不良」と表現したものと思われますが、認定調査の特記では伸展不良という表現はあまりしません。一般的には「伸展の制限がある」「可動域制限がある」「屈曲拘縮がある」などと記載し、そのうえで、上記の例では「膝関節は30°曲げた状態から伸ばせない」と記載します。

②については、「8割」とは何に対しての割合なのか、また、実際の角度に換算する必要もあり特記にはなじみません。

麻痺・拘縮の有無 上肢と下肢の評価と特記記載

<上肢の麻痺の評価(座位)と記載>

上肢は既定の確認動作を実際にやってもらい判断します。そして、やってもらった動作が日頃と同様かを確認します。
①肩の高さぐらいまで挙上して静止できるかで判断しますが、肩関節の拘縮などで完全に肩の高さまで上げられなくても、上げられない角度が軽度なら「ない」を選択します。
ちなみに、私の場合は肩の高さから10°程度下がっている場合は「ない」を選択しています。

②肘関節に軽度の拘縮があって肘を伸ばせない場合は、可能な限り肘関節を伸ばした状態で確認動作を行い評価し、その状況を記載します。肘関節に著しい拘縮がある場合は「ある」を選択し、その状況を記載します。肘関節の拘縮については、私の場合は約30°未満は軽度、それ以上は著しいと判断しています。

<下肢の麻痺の評価(座位)と記載>

下肢の場合も上肢同様に既定の確認動作をやってもらい判断しますが、以下の状況の場合は次のような判断をします。(上げた状態を保持できる前提)

①膝関節に軽度の可動域制限があって膝から先を水平まで伸ばせない場合は、可能な限り膝関節を伸ばした状態で確認動作を行い評価します。この場合、他動的に膝関節の動く範囲まで自分で上げることが出来れば「なし」を選択します。特記には、軽度の可動域制限があることやその角度などを記載します。

②膝関節に著しい可動域制限がある場合は、他動的に動く範囲まで自分で上げることが出来ても「ある」を選択し、拘縮角度など、その状況を記載します。

③膝関節の可動域制限(屈曲拘縮)の「軽度」「著しい」の判断は、保険者が規定の角度を示していればそれに従い、規定がなければ約30°(まっ直ぐ伸ばした状態から30°の屈曲)を境に、それ未満なら「軽度」それ以上なら「著しい」の拘縮と判断している保険者や調査員が多いようです。

④膝から先は水平に伸ばせるが、膝関節の屈曲制限があって膝を90°に曲げられない場合、この場合、70°を境にそれ以上曲げられれば「ない」、それまで曲げられない場合は「ある」を選択している保険者や調査員が多いようです。

特記記載のまとめと特記例

1.麻痺・拘縮ともに、選択肢の選択根拠となる「軽度」「著しい」と判断する角度などの基準があること

2.上肢・下肢ともに座位で確認した場合は特に断りはなくても良いが、座位以外で確認動作を行った場合はその状況を記載する

3.麻痺・拘縮が「ある」と判断した場合は根拠となる具体的な数字を記載するが、明らかに出来ないケースは状況を記載するだけで良い

特記例:右麻痺があり、右下肢は膝から先をほとんど動かせない

4.下肢の麻痺は、座位の場合は座面からの垂線に対する角度で、拘縮は膝を真っすぐに伸ばした状態から曲げた角度で表現するのが基本。この場合、角度だけでなく「既定の角度の1/3」などの表現でも状況が分かれば可。ただし、「何割程度」「床から何センチ」は判断が困難で不可

特記例:右下肢は筋力低下で約60°までしか上げられない(右下肢麻痺あり)

特記例:右下肢は筋力低下で規定の1/3までしか上げられない(右下肢麻痺あり)

特記例:右膝は約30°の屈曲拘縮があり、可動域制限が著しいと判断し、麻痺・拘縮ともにあるを選択(右下肢麻痺・右膝の拘縮あり)

5.可動域制限がある場合、制限角度と共に「他動で動く範囲まで自分で動かすことが出来るか」がポイントになるので、その状況を記載する

特記例:右膝は約20°の屈曲拘縮があるが、他動的に動かせる角度まで自分伸ばすことが出来るため麻痺は「ない」を選択(右下肢の麻痺および右膝の拘縮なし)

「麻痺等の有無」「拘縮の有無」などの能力項目は実際に確認動作を行ってもらい評価するのが基本ですが、実際にやってもらった状態が日頃の状態と異なる場合もあるため、やってもらった結果が日頃と同様かを同席者に確認しましょう。