話題|訪問調査で対象者本人に質問する第3群の聞き取りかた
対象者本人に質問する第3群の聞き取りかた
Ⅰ.聞き取りでの失敗経験
・私が以前に介護付き有料老人ホームで認定調査をした際、私が帰ってから対象者の方が「なんか身辺調査をされているみたいで怖かった」と施設職員に訴え、施設側が市の窓口でその通り伝えたため、その後その施設での調査依頼は来なくなりました。
振り返ってみると、対象者は80代の女性で、調査中も「何でそんなことを聞くの?」「なんか調べられているようで怖い」と言っていました。その都度、「これは介護認定調査で、決まった項目を皆さんにお聞きしています」と説明していたように思います。また、聞き取りの際は施設職員の方が同席していました。
その当時私は白のYシャツと黒ズボンの身なりでしたが、この調査の他にも同様の苦情があったため、それ以降は役所の人間のような身なりは止め、ズボンは同じですが上着は紺のポロシャツに変えました。
また、対象者が女性の場合には調査員の質問が威圧的に感じることがあるようなので必要以上の大きな声で話さないようにしました。
話し方について書かれた本などを見ると、「話の内容よりも、相手の話し方や表情、態度が印象を決める」などと書いてあります。
話し方や態度は自分で直すことが出来ますが、調査項目は変えられないので、対象者へ質問する項目の順序を変えたり、相手に合わせた言い表し方をするなどして、極力警戒感を持たれないように聞き取りする必要があると痛感したものです。
好感度について「話の内容よりも話し方や表情、態度が重要」とは言え、認定調査の場合、特に3群の項目は質問に対する返答内容で評価する場合が多いので話の内容も重要です。
しかし、テキスト記載された順番通りに杓子定規に聞き取りを進めれば、その場の話の流れを無視した一方的な聞き取りになってしまい、その結果、対象者は「プライベートなことを細かく聞いてくる。認知症のテストをされているのでは?」と感じて私が経験したような苦情につながる可能性があります。
今回は、特に対象者に答えてもらう第3群の項目について、「認知症のテストをされている」と不快感を感じさせないようにするにはどのように話を進めていくのが良いか、私の経験から述べさせていただきたいと思います。
皆さんそれぞれの方法をお持ちと思いますが、これからの調査の参考にしていただけたら幸いです。なお、対象者は自分の担当する利用者ではない前提で話させていただきます。
Ⅱ.聞き取りの実際
1.訪問調査の理由を、正確にではなく解りやすく説明する。
高齢者に要介護認定の仕組みや認定調査について話をすると長くなりますので、相手が介護保険に該当している方(要介護認定されているとの意味)として話を始めます。
実際には、「介護保険に該当している方は、高齢の人が多いので特別な病気をしなくても足腰が弱くなっている方がいます。以前は普通に歩けたのに今は歩くのが大変になったりしている場合があるので、3年に1回(更新の調査の場合)は変わりがないかを直接本人と会ってお聞きすることになっています。今回○○さんは前回から3年が経ったので、市役所の方から『○○さん変りがないか聞いてきて欲しい』と頼まれて来ました。」
「これは介護保険に該当している方全員に聞くことになっていて、特別なことではありません」と説明し、「そんなに時間はかかりませんので、話を聞かせてください」とお願いします。
この説明だと殆どの方は納得して質問に答えてくれます。もちろん詳しい説明を求める方の場合や区分変更申請の調査の場合はその状況に合わせて話をしますが、基本的には先ほどの前置きで問題ありません。
2.訪問調査は3群の質問から開始し、まずは本人確認として生年月日と名前を聞く。
訪問調査をテキストの順番通り1群の起居動作の確認から始める方もいると思いますが、自己紹介して間もなくの起居動作の確認は「変りがないかを聞く」目的としては唐突なので、まずは「初めてお会いするので、本人に間違いないかを確認させてください。」と言って、生年月日を聞きます。答えられない場合は「何歳になりましたか?」と聞きます。これは「3-3生年月日や年齢をいう」の質問です。
担当ケアマネで、定期的に対象者と顔を合わせている場合は別にして、更新申請で数年前にも同じ対象者を調査していても調査員の顔を覚えている方はほとんどいません。
次に名前ですが、かなり認知症が進行している方でない限りは自分の名前を言えるか、或いは呼名には返答できるので、私の場合はこちらから「○○さんですね?」と聞いてその反応で評価しています。これは「3-5自分の名前を言う」の評価です。
ここからテキストに沿って3群の質問していきますが、あらかじめ同席者には「これから本人にいろいろ質問しますが、もし答えられなくても答えが間違っていてもそのまま聞き流してください。正確なところは改めて介護者の方にお聞きしますので」と伝えておきます。
3.最初に体調をたずねる。
最初の挨拶で「変りがないかを聞きに来ました」と訪問の理由を言っている訳ですから、まずは体調について聞く必要があります。
要介護認定を受けている訳ですから何らかの病気があるはずですが、それを認識しているかを確認します。ただし認知症の方の場合は診断名を教えられていない場合が多いので「何ともない」と答えるケースが殆どです。認知症以外で「何ともない」と答える場合は「じゃあ、医者には掛かっていないですか?」「薬は飲んでいないですか?」と聞きます。これは「4-12ひどい物忘れ」評価の参考です。また、最近入院している場合は、入院したことを覚えているか、覚えている場合は何の病気で入院したのかを聞き取ります。これもひどい物忘れの評価の参考です。
4.今いる所は何をする所かをたずねる。
自宅での調査の場合は「ここに住んで長いですか?」と聞いて自宅であることを認識しているかを確認します。施設入所やショートステイの場合は「ここには初めて来たのですが、ここは何をする所ですか?」と周りを見渡しながら聞きます。答えられない様なら「ここは病院ですか?」「ここはアパートですか?」などと聞いていきます。認知症がある方の場合「施設」と答えられる方は少なく、「ここで皆と話をしたり体操をしている」「ここで世話になっている」などの表現をする方が多いです。もし答えられないようなら「ここには昔から住んでいるんですか?」と聞いて、自宅であるか或いは自宅に住んでいたがある時期からここに住むようになったいわゆる「施設のような所」と認識しているかを確認します。これは「3-7場所に理解」の質問です。
5.日頃はどのようにして過ごしているかをたずねる。
先に体調をについて質問しているので、その返答を参考にして日頃はどのような生活をしているかを聞き取ります。
自宅に住んでいる場合は対象者からの返答では判断できない場合が多いので介護者の情報で評価する場合が多くなります。施設に入居している方の場合はまず「ここに泊まっているんですか?」と質問します。「ここに泊まっている」と答えたら食事はどこで食べるのかやいつもどんな風に1日を過ごしているかを聞きます。「ここには泊まっていない」と答える場合は毎日通って来ているのかを聞きます。これは「3-2毎日の日課を理解する」の質問です。ちなみに施設利用の方が毎日通って来ていると認識している場合は日課を理解しているとは言えません。
6.食欲はあるかをたずねる。
これは食事摂取に関する評価ではなく、短期記憶を評価するために食事したことを覚えているかの確認の「前振り」です。皆さん食欲について何らかの返答をする訳ですが、それに続いて「じゃあ今日も食事は食べたんですね?」と聞きます。食事したことを覚えているか、覚えている場合は「それは朝食ですか、昼食ですか?」と聞きます。これは「3-4短期記憶」の評価です。なお、テキストでは調査直前のことを覚えているかで判断するとしていますが、私の場合は1∼2時間前のことを覚えているかも評価の参考にしています。さらに、対象者が詳細を答えられて短期記憶は明らかにできると思われる場合や意思疎通が困難な方を除いて「これも皆さんに答えて貰っているので見てください」と前置きし3品テストを行い、評価の参考にしています。
7.今日の日にちをたずねる。
「これは皆さんに聞くことになっているので気分を悪くしないで聞いてください」と前置きして、「今日は何月何日ですか?」と聞きます。これは「3-6今の季節を理解する」の質問の「前振り」で、日常会話で「今の季節は何?」などと聞かれることは滅多にないので、突然季節をたずねられると対象者は認知症のテストをされていると感じてしまいます。なのでまずは月日を質問し、その後に「それでは季節は何になっているでしょうね?」と聞くのが自然な流れです。
ここまでで対象者本人への質問聞き取りは一旦終了しますが、ここまでで「3-1意思の伝達」の評価は可能と思いますし、「4-15話がまとまらない」の評価の参考にもなると思います。
8.まとめ
訪問の目的を「身体の調子や生活ぶりが以前と変わりがないかを聞きに来ました」と説明し、3群の質問から始めます。質問の順番もテキストに拘らずに自然な話の流れで聞いていくようにし、また、話が横に逸れても無理に戻すことはせず、例え同席者が割って入って来ても出来るだけ話を中断しないようにします。
対象者本人に出来るだけ多く話をしてもらうことを心がけ、その結果記憶や理解力などの本人の状態像が見えてきます。
多少の忍耐力と聞き取り技術は必要ですが、状態像が見えると特記記載は楽になります。